ODISSI/オリッシーとは

 

オリッシー発祥の地

 

繊細で伝統的な文化を持つオリッサ州は、ベンガル湾に面した東インドに位置しています。

 

古くからオリッサの人々の心の拠り所となっていた土着神であったジャガンナート神は、後にヒンドゥー教の中でも大変人気のある神様となり、インド全土からも多くの信仰を集めています。ジャガンナート寺院があるプリーという町は、インド・ヒンドゥー教四大聖地のひとつです。

 

プリーのジャガンナート寺院の前で祈る人々

 

左から、兄のバララーマ、妹のスバドラー、そしてジャガンナート


 
そのジャガンナート神に捧げる踊りとして寺院で生まれ、継承されてきたのがオリッシー舞踊です。衰退の危機を乗り越え、偉大なグル(師匠)たちによって復興され、今では舞台芸術としても世界中を魅了し続けています。

 

オリッシーには魅力的なポーズがたくさんあります。そのポーズは、寺院の壁にある彫刻の中で見ることができます。オリッシーは、彫刻が生命を吹き込まれたようだと言われていて、「動く彫刻」とも表現されています。

 

叙情的で優雅なオリッシーは、その曲線的な美がひとつの特徴と言えます。独特な胴の動きがあり、上半身は柔らかにうねるような曲線を描きます。それと反するように、鈴を付けた足は複雑にステップを刻み、オリッシーの力強さを表現します。手を使ってものを表したり、首、目、眉を細かく動かすなど、ダンサーは全身を使ってオリッシーの世界を紡ぎだします。

 

オリッシーにはさまざまな演目分野がありますが、その全ての根底にあるのは「信仰」や「生命賛歌」であり、心・体・魂を三位一体にしてオリッシーは踊られます。



オリッシーとヒンドゥー教の神話

 

インドで広く信仰されているヒンドゥー教は多神教です。

 

オリッシーはヒンドゥー教の神様、ジャガンナート神に捧げる舞踊として発祥しました。ジャガンナート神は全宇宙の神として人々の信仰を集めています。

 

ジャガンナート神は、クリシュナ神の化身とされています。クリシュナ神はインドでも大変な人気のある神様です。絶世の美男子で、笛の名手でもあり、女の子たちの憧れの的です。子供の頃のクリシュナ神が、いたずらをして育ての母・ヤショーダを困らせたり、小さい体で恐ろしい悪魔たちを退治するエピソードは有名です。また、叙事詩「ギータ・ゴヴィンダ」をベースにした青年期のクリシュナ神と恋人・ラーダのお話、牛飼いの女の子たちと戯れる恋物語は、オリッシーの演目の中にもたくさん取り上げられています。

 

クリシュナ神は、ヒンドゥー教三大神のひとりヴィシュヌ神の化身とされています。そのため、オリッシーにはヴィシュヌ神を讃える演目も多いです。有名なものでは、ヴィシュヌ神が10の姿に化身して世界を救う「ダシャヴァタラ」があります。

 

その他にも、シヴァ神やドゥルガー女神などのヒンドゥー教の他の神様の演目も多数あります。

 

現在、その真髄を核としながら舞台芸術としても世界中に広まっているオリッシーは、宗教や国の垣根を越えて愛されています。



復興したオリッシーと偉大なグル(師匠)たち

 

現在、オリッシーはスタイル(流派)と呼ばれるようなものがありますが、もともと遥か昔に寺院で踊られていた奉納舞としての源流はひとつでした。

 

様々な理由で一時衰退しかけたオリッシーは、1950年頃に偉大なグル(師匠)たちによって復興され、体系化されました。

 

Guru Kelucharan Mohapatra 
Guru Debaprasad Das 
Guru Pankaj Charan Das

この3人の流れを汲むのが三大流派と呼ばれていて、

Guru Mayadhar Raut

を加えて四大流派と呼ばれます。

現在、スタイルと呼ばれるのものは、自分の師匠がどのグルの流派の系統かということになります。しかし、同じスタイルでも学校や師匠によって個性はそれぞれで、簡単には分けることができないように思います。



ふたつの特徴的なポーズ

力強い四角のポーズ「チョーコ」。

首・腰・ひざの3箇所を不均衡に折り曲げるしなやかなポーズ「トリバンギ」。


オリッシーの基本であるこの2つのポーズは、オリッシーの造形美の源流とも言えます。演目の中で見られるポーズやステップは基本的に、この2つのポーズを多種多様に組み合わせて形成されています。



オリッシーの演目分野

 

・ Mangalacharan マンガラチャラン
・ Batu, Sthayee バトゥ、スタイ
・ Pallavi パッラヴィ
・ Abhinaya アビナヤ
・ Moksha モクシャ

マンガラチャランは、オリッシー公演の最初に踊られる祈りの演目分野です。花を捧げ、大地に祈り、神々を讃えます。

バトゥ(スタイ)とパッラヴィは、動きだけで形成された物語性を含まない純粋舞踊演目の分野です。パッラヴィは、ゆっくりした動きから始まり、ラストに向けてより速くより複雑に、蔦が絡まりあうように展開していくのが特徴です。

アビナヤは、インド神話を主とした物語を踊りで表現する演目分野です。細かい目や手の動き、豊かな感情表現を使って、物語を紡いでいきます。

モクシャは、オリッシーの公演を最後に締めくくる演目です。インド哲学における「解脱」の概念を意味しています。



衣装と装飾品

オリッシーの衣装は、オリッサ州特有の絣や刺繍のシルクサリーを仕立てたものが多いです。
   
photo by Shin Deguchi


アクセサリーは、オリッサの特産品であったシルバー製品を利用するのが一般的です。中でもフィルグリと呼ばれる繊細な銀細工は、見とれてしまうほどの美しさです。
 
photo by Shin Deguchi


頭には植物からできている「タヒア」という白い飾りを付けます。中央上に立っているのは、お寺の象徴です。
 
photo by Shin Deguchi


メイクは、特徴的なアイラインや耳の前のもみあげを描いたり、他にもたくさんの細かい化粧を施していきます。

くるぶし上についた「グングル」という足鈴は、ステップするたびに音色を奏でます。

手や足には「アルタ」と呼ばれる赤い液体を指先などに塗って飾ります。アルタは女性ダンサーのみが使用します。

衣装・アクセサリーの特徴や、メイクの細かい決まり事は、流派や師匠ごとに少しずつ違いがあります。

踊る前の準備にはとても長い時間がかかります。ひとつひとつ丁寧にこなしていくことで、穏やかな気持ちの中で神様の元に近づいていくとも言われています。衣装に袖を通し、メイクをすることから踊り(=献身、祈り、感謝)が始まっているという考えがあります。